時間をかけるパンづくり|ゆっくり発酵が生むおいしさと安心感

最近は「時短レシピ」や「スピード調理」が人気で、暮らしの中でも「いかに早く終えるか」がひとつの価値観になっているように感じます。でも、パンづくりにおいては——私はあえて「時間をかけること」を選んでいます。
ゆっくり発酵させることでしか生まれない、やさしさと深さがあると思います。
「ゆっくり」の理由

私が焼くパンは、国産小麦、てんさい糖、よつ葉バター、天然酵母を使っています。これらの素材には、どれも速さではなく“じっくり”と向き合うことが求められます。
天然酵母は、イーストのように急速に発酵させることはできません。気温や湿度、その日の酵母の状態に左右されながら、パン生地とゆっくり向き合っています。この時間のかかる発酵こそが、パンの味わいに奥行きを与え、食べたあとに体が「やさしい」と感じる理由になっているように思います。
天然酵母とドライイーストの違い

特徴 | 天然酵母 | ドライイースト |
---|---|---|
発酵スピード | ゆっくり(6〜24時間) | 速い(1〜2時間) |
安定性 | 環境に左右されやすい | 安定して扱いやすい |
風味 | 酸味や旨みが複雑に出る | 単調で軽い風味 |
消化・栄養面 | 酵素が活性化しやすく、消化に良い | 時間が短く、消化性はやや劣る |
手間 | 手間がかかる | 簡単で手軽 |
どちらにも良さはありますが、私は「体にやさしいパンを、子どもに安心して食べさせたい」という思いから、天然酵母のゆっくり発酵を選んでいます。
焼き上がるまでの“静かな工程”

パンを仕込む前に酵母の状態を確認し、粉と水と塩と混ぜる。こねすぎず、でもしっかりとつながるまで手を入れ、一次発酵を待ちます。気温によっては6時間以上かかることもあります。
二次発酵、成形、そして焼きの工程へ。ようやく香ばしい香りが立ちのぼるのは、仕込みから8時間以上経ってから、なんて日も珍しくありません。
酵母と暮らすということ

天然酵母との付き合いは、まるで植物と暮らすようなもの。元気な酵母の時、元気がない日、泡がぷくぷく立つと「今日はいける」と心が弾む。酵母を育てるうちに、自分の生活も整ってきたような感覚があります。
以前、急に冷え込んだ朝に、発酵が思うように進まず焼けなかったことがありました。焦る気持ちをぐっとこらえ、翌日に焼き直したパンの方がずっと美味しく焼けたことを今でも覚えています。パンだけでなく、自分にも「もう一晩寝かせてみる」時間が必要なんだと気づきました。
おわりに|ゆっくり育てたパンは、強い

時間をかけることは、丁寧であること。丁寧であることは、信頼されるものをつくることにつながる。
手間がかかっても、ゆっくりでも、「あなたに食べてもらいたくて焼いている」。そんな気持ちで、今日もパンを焼いています。
パネッテリアラテのパンが、どこかで、誰かの食卓にそっと寄り添えますように。